「静かな退職」が示す“働き方のゆるやかな境界線”

「静かな退職(Quiet Quitting)」は、仕事に必要な最低限のことだけを行い
それ以上は行わないという状態を指します。

このような働き方は決して新しいものではなく
どの時代・どの組織にも一定数存在していたと考えられます。

しかし、労働人口の減少・技術革新といった外部環境の変化が進む中
これまで以上に許容されづらくなっているのかもしれません。

この調査では、50名以上規模の企業に勤める25~59歳の正社員7,105名を対象に
「静かな退職者」とともに働く人々の意識・感情、職場への影響などを探ったものです


調査のポイント

1. 職場に「静かな退職者」がいると感じる人は4人に1人程度

調査によれば、回答者の 27.7% が「同僚や上司に静かな退職をしている人がいる」と感じると回答しています。
つまり、静かな退職が現実の職場風景として、決して稀なものではないという認識が広がっていることを示唆します。

2. 感じる影響はマイナスが多いが、一部には“恩恵”の感覚も

“静かな退職者”がいることで 不利益を感じた人 は調査対象のうち 55.1% に達する一方
恩恵を受けた感じがある と答えた人も 15.1% 存在しました。

  • 不利益として最も多く挙がったのは「仕事量増加」(47.7%)
  • 恩恵として最多は「相対的に自分の評価が上がった」(12.5%)という回答でした。

この二面性は、組織・職務構造・評価制度などの設計・運用によって
同じ環境でも受け取られ方が変わり得ることを示しています。

3. 若年層(20代)は恩恵を感じやすく、中堅層では不利益感が強まりやすい

世代別に見ると、20代では恩恵を感じる割合が相対的に高く
30〜40代の中堅層で不利益を訴えるケースが目立つ傾向がありました。

これは、20代がキャリア初期という立場上
自己成長の余地や相対評価を意識しやすいのだと思います。

4. 周囲に静かな退職者がいても“幸福感”を保てる条件

「成長支援感」や「正当評価感」といった要素が
幸福感(主観的幸福感)を高める効果を持つとの結果が示されました

具体的には、静かな退職者が周囲にいると感じている人でも

  • 「会社から成長支援されている」と感じている人
  • 「公正な評価を受けている」と感じている人

は、そうでない人と比べて主観的幸福感が統計的に有意に高くなる傾向が確認されたとのことです。

この点は、単に「静かな退職者を排除すべき」とするのではなく
その存在を前提とした上で、組織としてどのように従業員を評価するかを考えることが重要です。


名古屋企業・経営者視点からの示唆と実践ポイント

以下では、名古屋・中部圏の企業を想定した視点から、社労士という立場での助言と対応方針をまとめます。

A. 「静かな退職者」は必ずしも“悪”とは言えない

調査でも触れられているように、「静かな退職」は長く言われてきた概念であり
どの組織にも自然に存在し得るもの、との理解が示されています。

むしろ重要なのは、「静かな退職者」がいる状態をどう捉え、どのように関係を設計するかです
過度な制約や萎縮的マネジメントをかけるよりも
制度設計やコミュニケーションを通じて丁寧に向き合う方が
中長期的な組織健康性を保てる可能性があります。

B. 人事制度・評価制度の見直しを検討すべき

調査結果で浮き彫りになったように、
不利益感の背景には 「処遇・評価の不公平感」 が存在するケースが多く見られました。

中小・中堅企業では、評価制度が不明瞭・属人的になりがちです。
社労士の視点からは、以下のような改善策を検討できます

  • 評価基準・ルールを明文化し、社員にも見える形で開示
  • 多様な評価軸の導入
  • 定期的な1on1(上司–部下対話)や目標設定振り返りの場を仕組む
  • 昇格・昇給がレビューされた後に説明を付加する仕組み

これらにより、「静かな退職者が相対的に手を抜いているように見えてしまう」
という感覚を軽減できる可能性があります。

C. 成長支援(育成・キャリア)機会を制度化・運用強化

幸福感を支える鍵として示された「成長支援感」は
組織が社員に対してどれだけ「投資しているか」「未来を描かせうるか」に関わります。

具体的施策例は以下の通りです。

  • キャリアパス制度を明示し、将来像を共有
  • 社内研修・外部研修機会の定期提供
  • 社員に対するチャレンジ型業務アサイン
  • メンター制度・社内ナレッジ共有制度の充実
  • 成果でなくプロセス重視のフィードバック文化づくり

D. コミュニケーション・対話の場を戦略的に設計

制度だけを整えても、「伝わらなければ意味がない」のが人事・組織マネジメントの難しさです。
特に、静かな退職者・潜在的な静かな退職志向者が感情を抱きやすい局面では、
上司・人事・社員間の丁寧な対話が効果を持ちます。

  • 定期的1on1、モチベーション確認・課題抽出
  • フィードバックの質を上げる教育(上司トレーニング)
  • アンケートやタウンホール形式の場を設ける
  • 「対話・心理的安全性重視」の文化を育む

これらは「静かな退職を防ぐ」といった方向だけでなく
「静かな退職者がいても周囲が健全に働ける環境をつくる」ための鍵になります。


結びに ― “静かな退職”と共に働くための労務戦略

本調査は、「静かな退職」を単なる課題視点で語るのではなく、その存在を前提としたうえで
組織としてどう受け止め、どう運営すべきかを問いかけています。

社労士としては、制度・制度運用・対話支援・風土設計をトータルにサポートし
静かな退職者がいても組織が健全に回る環境をつくる支援を提供したいと考えます。

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