人手不足を乗り切る鍵は“労働移動+多様性”戦略 — 経団連の提言から

日本経済団体連合会(経団連)は
11月、「『労働移動の積極的な推進』実現に向けたアクションプラン」を発表しました。

この提言では、まず、日本では平均勤続年数(12.4年)が他の主要国より著しく長く
(アメリカ3.9年、韓国6.2年、イギリス9.4年、ドイツ10.1年、フランス10.3年)、
労働移動が極めて少ないことが指摘されています。

このような状態では成長分野への人材の移動に大きな制約があることを示しつつ
今後の労働移動の推進を図ることが
個人のキャリアアップに必要であるばかりでなく
日本全体の成長のために不可欠であることを明確に打ち出しています。

今回は、採用に悩む経営者に向けて、提言の内容を解説していきます。

なぜ今、「採用」が企業経営の最重要テーマなのか

なぜ今、「採用」が重要テーマなのでしょうか。
提言では以下のような理由があげられています。

  • 日本は人口減少・少子高齢化が進み、労働力供給が構造的に厳しくなっています。
    経団連も、「労働移動の積極的な推進」が重要課題としています。
  • 同時に、産業構造は DX・GX によって劇的に変化しており
    企業にはこれまでと異なるスキルを持つ人材が求められています。
  • こうした環境下、「採用だけ」で人材確保を図るのは限界があります。
    むしろ、社内外の労働移動、多様な人材活用、
    そして人材への「投資(育成・定着)」が不可欠になってきています。

経団連のアクションプランが示す、採用戦略の示唆

経団連の「労働移動の積極的な推進」アクションプラン(2025年)には
企業が優先的に取り組むべき具体策が示されています。
主なポイントを挙げると以下の通りです。

  1. 採用方法の多様化
      - 通年採用の導入・拡大(新卒含む)
      - 経験者採用・カムバック採用の強化
      ⇒ “採用の安定化”
  2. 副業・兼業の活用
      - 副業・兼業を制度として受け入れ、人材確保や育成の戦略に組み込む。
      ⇒ フルタイム勤務が難しい人を活かせる。
  3. 多様な人材の定着と活用
      - 経団連は、女性、高齢者、外国人など多様な人材の活躍を重視しています。
      - 外国人材について、報酬・評価制度、日本語/多文化対応インフラ整備など を整えることを提言。
      ⇒ 多様性を戦力に変えるには、採用にとどまらず、評価・処遇・キャリア設計を見直す。
  4. 教育機関との連携
      - 教育機関(大学、専門学校など)とのパートナーシップを通じて、
    リカレント教育(再教育)やインターンの仕組みを強化。
      ⇒ 学生や若手を早期に取り込み、企業にフィットしたスキルを育てる。

また、政府に対しても、以下のような対策に2026~2028年度という実施時期を明示し、
今後、官民で取り組むべきアクションプランとして提起しています。

  1. 雇用セーフティネットを労働移動推進型に変えるため、
    雇用保険制度を改正するとともに、退職給付制度や税制を見直す
  2. リスキリングを含むリカレント教育支援を拡充

経営者への具体的アドバイス

採用に悩む経営者として、以下の戦略を段階的に検討することをおすすめします。

1. 採用プロセスの見直し

  • 通年採用制度 を導入し、採用計画を年間フレームで設計。
    繁忙期だけでなく閑散期にも応募チャネルを維持。
  • カムバック(再雇用)制度 を設計。過去の従業員に対して再入社の選択肢を示す。
    これには管理職や元有能社員を呼び戻すXD(経験採用)を含める。
  • 募集チャネルの多様化(求人媒体だけでなく、業界ネットワーク、OB/OG紹介、副業プラットフォームなどを活用)。

2. 副業・兼業制度を制度化

  • 就業規則や契約書を改定し、副業・兼業を正式に許可/支援。
  • 副業者が持つスキルを自社のプロジェクトに取り込む仕組みを構築。プロジェクトベースや短期契約型の業務を用意。
  • 社内で兼業者をサポートするチームを作り、マネジメントルールや評価制度を整備。

3. 多様な人材の採用・定着

  • 外国人材:給与・待遇制度を見直す。多言語対応、福利厚生、文化研修、
    日本語学習支援などを行う。
  • 高齢者/シニア:定年延長や再雇用、パートタイム制度を整備。年齢に合った役割を設計。
  • 女性・育児中従業員:柔軟な働き方(時短、リモート)、キャリアパスの明確化。
  • 評価とキャリア制度:成果・能力を適切に評価できる体制(ジョブ型雇用や透明な評価制度)を構築。

4. 教育・育成への投資

  • 教育機関と提携して、インターン、共同講座、産学連携プログラムなどを実施。
  • 社内でリスキリング/リカレント教育を推進。
    従業員が変化する業界・技術に柔軟に対応できるよう支援。
  • キャリア相談制度を設け、自律的なキャリア形成を支えましょう。

5. 組織・制度文化の変革

  • 経営層が「人への投資」にコミット:
    賃金引き上げ・処遇改善はただのコストではなく、成長投資です。
  • 多様性を受容する企業風土づくり:ダイバーシティ研修、
    アンコンシャスバイアス研修、異文化交流の場などを設けましょう。
  • 社員エンゲージメントを高める仕組みを導入。
    定期的なフィードバックやキャリア面談を通じて、社員の定着率を高めましょう。

注意すべきポイント・リスク

  • 副業・兼業許可には 就業規則・契約の見直し が必要。
    トラブルを避けるため、明文化と社内周知を徹底しましょう。
  • 多様な人材(特に外国人や高齢者)を受け入れるには 制度投資が必要です。
    短期のみで終わると離職のリスクが高まります。
  • 評価制度を変える際、従来型の年功や一律昇給制度と調整が必要です。
    社員からの反発も想定して、対話を重ねましょう。
  • 教育・育成を強化するには コストがかかる
    しかしこれは単なるコストではなく、将来の生産性向上・人材確保への投資と考えるべきでしょう。

結論 — 経営者へのメッセージ

採用に悩む経営者のあなたにとって、今こそ 従来の「求人を出して待つ」スタイル から脱却し、
戦略的な人材マネジメント に舵を切る好機です。

経団連のアクションプランは、今後の日本社会と企業環境の変化を見越した提言であり、
それを取り入れることで、持続可能な採用力・組織力を築くことができます。

社労士としてお手伝いできることも多々あります。
制度の設計(副業/兼業、カムバック、評価制度など)、就業規則改定、ダイバーシティ研修、
キャリアコンサルティング体制の構築など、ご相談があればお声がけください。

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